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広島市内を走る路面電車。通称「広電」。 |
ここではその「広電」の駅にちなんだショートストーリーを公開しています。 |
全て作り話の”つもり”ですが、広電に乗ればそんな風景も・・・ |
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広電物語 : 「お隣さんはどんな人?」
「ヒロちゃん、皆実町二丁目ってどこよ?」
広島市内に20年以上住んでるこいつでさえ、そんなこと聞くんだもんなぁ。
「最近御幸橋のあたりにでっけぇスーパー出来たの知ってる?その端っこのあたりよ」
巨大ショッピングセンターが出来てから説明が少しだけ楽になった。
皆実町二丁目に住みだしてから3年。
結構便利なところだと思ってた。
広電で駅まで一本だし、少し歩けば隣は皆実町六丁目。
そこからなら本通、紙屋町も一本だ。
バスもちょこちょこ通ってる。
学生時代、自分に家は大学の傍にあって、ひっきりなしに誰かが入り浸ってた。
社会人になるときに、さすがにこれじゃあなぁ、と思い、少しだけ離れたところにアパートを借りることにした。
地図をパラパラめくって、色んなところに行ってみた。
川にかかる橋をチャリンコで何回も渡った。
でもってたどり着いたのが皆実町二丁目。
六丁目にあった不動産屋のオッサンに進められて見に行ったときに一目で気に入ってここにした。
アパートが気に入ったわけじゃない。
長い髪をした同い年くらいの女の子がアパートの前からチャリンコに乗ったのが見えたからだ。
その子は細くて美人で、あまりのかわいさに、ハゲたピカピカのオッサンの頭がくすんだ石に見えたほどだ。
即決でこのおんぼろアパートに入ってから3年。
その子に会ったのは最初の一ヶ月に3回だけ。
会ったと言っても、見かけただけだけど。
ちなみに来客は3人。
親父と、おかんと、ねーちゃん。
その子に会えなくなってからしばらくは、生活のリズムが違うだけだろうと思ってた。
おれはそのとき8時に家を出て、帰るのは広電の最終電車、なんて生活をしてたから。
新入社員歓迎会みたいなのに毎日顔を出し、ふらふらと自転車で帰ってくる生活。
そりゃあわないよなぁ、なんて思ってた。
でも8時くらいには帰るようになってからも、まったく見なくなってしまった。
引っ越したのか?
月並みなオチだなぁ。
そうこうしているうちに、アパートの近くには巨大ショッピングセンターが出来て、
家の前の路地も人通りが増えた。
おれはその子を勝手に「お隣さん」なんて呼んでたけれど、今じゃあ人通りが増えて、誰がこの辺に住んでる人で、誰がスーパーに買い物に来ただけの人か、それすらわからなくなっちまった。
おれの部屋は端っこで、本当の「お隣さん」は老人夫婦みたいだ。
おれが唯一名前も知ってる「お隣さん」だ。
「そろそろ引っ越すかなぁ・・・」
そんな言葉がつい口をついで出てくる。
それを聞いた隣の席の同僚とした会話が、冒頭の会話。
「便利じゃーん!」とそいつは言っていたが、三人の子供を育てる笑顔の素敵なパパじゃあるましい、巨大スーパーに用事なんてない。
むしろ六丁目のパチ屋がつぶれないように願うのみだ。
「お隣さん」の話を知ってる友人に引越しの相談をすると、決まって言われる。
「お前は夢の見すぎなんだよ。次も美人がいるなんて虫のいい話があるか?そもそもいたからってどうなるってんだ?ジロジロ見てたら捕まるぞ?」
おっしゃる通りです。
桜吹雪もびっくりの正論だよ。
でも期待しちゃうんだもん、仕方ねーじゃん。
窓の外では広電がガタゴト走っている音がする。
その子も乗ってたんだろうなぁ。
この電車は誰かを連れてきてくれる電車かね?
それとも誰かをどっかに連れて行ってしまう電車かね?
皆実町二丁目なんて半端な電停になんの御用?
外はうだるような暑さ。
日が暮れるまでとても外に出る気なんて起きない。
暇なのでパソコンを立ちあげてネットする。
自分の部屋以上にありふれた光景が画面の中広がる。
そこには「お隣さん」なんていない。
あるのは何枚ものページだけ。
ページの先には線でつながった誰かがいるけど、その間に電車は走ってない。
ブログ紹介サイトを流し読みする。
ふと、『皆実町の思い出』という日記を見つけた。
ページを開く。
写真とかは、どうやらない。
そこには皆実町に住んでいた頃の思い出が書かれていた。
2年間ほど3年前まで。
「お隣さんだ・・・」
なぜかおれはそう思った。
(この物語はフィクションです)
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